2007年8月20日から27日まで、カナダを訪問してきました。7月に出国したドーガン一家に会うためです。様子を簡単にご報告させていただきます。


 さて、第三国出国ということで、ドーガン家の出国先はカナダとなった訳ですが、彼らはどんな暮らしをしているのでしょうか。ある程度の生活費は用意していったものの、英語をほとんど話せないドーガン家は、無事に生活の基盤を築いていけるのでしょうか。非常に気掛かりでしたので、実際にカナダに行って生活の様子を拝見することにしました。

 結論から申し上げますと、ドーガン家は問題なくカナダで暮らしていけると確信しました。
 というのも、ドーガン家が住むことになった地域には、少なくとも50人以上のトルコ系クルド人が住んでおり、その方々が実に面倒見の良い方ばかりで、あれこれとドーガン家を気にかけて下さっています。また、宗教もドーガン家と同じアレヴィ派だそうなので、そのことも親近感が湧く要因のようでした。
 ドーガン家は現在、知人の家に身を寄せているのですが、その家のご夫婦の人柄もあり、毎日のようにクルド人の親子連れが訪れ、昼食や夕食を共にします。また、ご夫婦の計らいで、休みの日には地域のクルドの人たちと一緒にピクニックに行ったり、湖に泳ぎに行ったりして、親睦を深めているそうです。地域のクルドの人たちとは、もちろんトルコ語で会話することが可能なので、エルダルさんもメリエムさんも、ストレス無く会話をしている様子でした。
 また、滞在中に家の庭でバーベキューをしたのですが、メリエムさんが日本では見せたことが無いような満面の笑顔で、奥さん友達と料理の準備をしたり、冗談を言い合いながらバーベキューを食べていたのが、とても印象的でした。信頼できる友人もできたようで、メリエムさんが出迎えの挨拶するときに、ぎゅっと抱擁しながら迎えていた女性もいました。
 いくらドーガン家のみんなが日本語が上手になったとはいえ、やはり母語であるトルコ語で話し、自分と同じ生活習慣を持つ人たちと過ごすことは、何にも変え難い精神的な安らぎを得られるのだと思いました。
 
 そして、住む家もついに見つかったので、9月上旬にはドーガン家は引越しします(今、お世話になっているご夫婦の家の近所です)。自分たちの家に住めることにメリエムさんはなにより喜んでいました。元々住んでいたトルコの家は非常に広かったので、日本での暮らしはかなりストレスが溜まっていたようです。広い家に住めることになって、非常に嬉しそうでした。
 メルヴェとメモシュも、少しずつ英語を覚えつつあり、子ども特有の発音の良さで、簡単な挨拶や会話をし始めていました。9月4日からは二人とも小学校に通うそうです。学校ではもちろん英語で話さなくてはなりませんが、クルド人の友達(既にトルコ語・英語どちらも話せる)の助けも借りることができるので、予習・復習をちゃんとすれば、すぐに習得できると思います。
 エルダルさんも、友人の紹介で、既に建設現場で仕事を始めています。現場はクルド人ばかりなので、会話に困ることはないそうです。

 カナダは住宅の値段が高い、物価が高い、税金が高い、車が必需品だが毎月の車両保険が高い、仕事の口が元々少ないが、冬場は豪雪のためもっと少なくなる、など、金銭面・物質面での当初の苦労はいろいろあると思います。
 しかし、今、お世話をしてくれているご夫婦と地域の人たちは、そういったことも含めて、親身になってサポートしてくださっています。その皆さんの支えがある限り、ドーガン家が立ち行かなくなることは、まずないと思いました。
 
 選んだ出国先がカナダであったこと、現地でサポートしてくれる人たちが非常にホスピタリティに満ちた、優しい人たちだったこと、どちらもドーガン家や私たちに支援者にとって、幸運だったと思います。

 ドーガン家は、日本にいた時よりも、もっとずっと幸せになってくれると私は思いました。
カナダのドーガン家訪問 ご報告
2007年8月30日
9月上旬にドーガン家が入居予定の家です。
この家は2軒がくっついていて、向かって左半分がドーガン家の家になります
庭でバーベキューをしました
楽しそうに料理の準備をする
メリエムさん
9月からあの学校に通います
英語の勉強もしているよ!
床に座って食事をする、クルド式の
食べ方はカナダでも健在でした
世界三大瀑布であるナイアガラの滝
水がきれいです
メルヴェも大喜びです
夫婦で記念撮影。リラックスした表情です
お父さんお母さんに似て、メルヴェもメモシュも美形。将来が楽しみですね
滝をバックに家族で記念撮影

●エルダル・ドーガンさん

日本からカナダに来て、1ヵ月半くらい経ちましたが、どんな感じですか?

「カナダはいいところはいいところですね。
例えば、家も広いし、道路も広いし、普通の人間らしい生活ができるから。
カナダに来て1ヶ月半くらい経ったが、ここに来てから1度も警察に身分証明書をチェックされたことが無い。身分証明書が無くても、どこでも好きなところに行ける。というか、そもそもここでは全然、警察を見かけない。
日本に居た時は1ヶ月に何度も警察に呼び止められ、身分証明書をチェックされた。カナダではそんなことは無いんです。

仕事はいかがですか?

「カナダは仕事があまり無い。日本では仕事の口が(アルバイトだが)とりあえずはあった。だから、そういう面ではカナダより良いと思った。
それから、日本の物価はカナダより安い。カナダはほんとにめちゃくちゃ高い。日本では、仕事をしていれば普通の生活ができると思うけど、カナダでは(その金額では)とても無理!だと思いますよ。」

生活面ではいかがですか?

「カナダはこれから段々寒くなるんです。今日もちょっと寒いし。冬はカナダはなかなか仕事がないみたいです。はっきり分からないけど、マイナス40度まで気温が下がるみたいなので。でも、まあ、しょうがないですね。
これから私達のふるさとはカナダになります。ここで生活していかなくては。これから、文化とか寒さとか、いろんなことに慣れないといけないんです。」

日本のサポーターにメッセージをお願いします
「今まで、2004年の7月から、2007年の7月10日まで、いろんな方、いろんな議員やメディアの方達、我々をサポートしてくれた。
皆さんには、本当に心から感謝いたします。私達家族4人は、今、支援者達のお陰で、普通の生活を自由な生活をしています。
皆は今のところ元気、問題は無いです。それは、皆さんのお陰なんです。」

エルダルさんは、一家の大黒柱となる人なので、やはり仕事や物価の高さを気にしているようでした。
収入が安定するまでは大変だと思いますが、ここで根を張って生活していくという決意は強く感じられたのが、心強く思いました。


●メリエムさん

「日本にいた時に、心配していたのは子どもの教育のこと。日本では、子どもの将来どうなるのか、全く分からなくて心配だった。カナダでは、子どもが学校に行って大学を出て、大人になるということが普通に考えられるから安心できる。
私も、メモシュが学校に行って英語を覚えたら、その後は自分も学校に行って英語を覚えたい。車の運転もできないと困るから、免許も取りたい」
と、メリエムさんはとても意欲的でした。
「お母さんはいつでも自分のことは後回しにしないといけないから、大変ですよね」と聞くと、
「そうね。メルヴェは大人しいからいいんだけど、メモシュは他の子より手がかかるからちょっと大変。でも、自分の子どもだから頑張って育てる」と答えてくれました。

 メリエムさんは、メルヴェが小学校に入った時に急激に日本語が上達したので、そのことについて聞いてみたところ、
「最初は、自分はいつまで日本にいられるか分からないから、日本語は勉強する必要はない、と思ったこともあった。でも、メルヴェが学校に通って、宿題を私に教えてと聞いてくることが多くなった。それを教えてあげられないのは恥ずかしいことだと思った。だから、私も頑張って勉強した。」
と答えてくれました。母は強し、だとと私は思いました。

 家にいることが多かったメリエムさんは、もうすぐ自分たちの広い家に住めるようになることを何より喜んでいました。また、近隣のクルド人の奥さんたちとの交流も深まっていて、一緒にパンの生地を作ったり、お茶を飲んだり、昼食を食べたりして、楽しく過ごしていました。
 クルドの女性たちは、普段から頻繁にお互いの家を行き来し、非常に親密な関係を作ります。友人宅であっても、その人が身重だったり、病気で体調が悪かったりした時は、食事の支度・後片付け・掃除機がけなどの家事を代わりにやってあげたり、車で病院や買い物に連れて行ってあげたりするお世話は、友人同士でもごく日常的に行われているそうです。
 日本では、なかなかそういったことは、よっぽど仲が良い間柄か、身内でもないとできない(というか遠慮して頼めない )と思います。そういう同じような生活習慣と価値観を持った人達と生活できることが、メリエムさんにとって、大きな安らぎになっている印象を受けました。

 メリエムさんは、家に訪れた友人達に自分たちのことを知ってもらうため、日本で流れた座り込みのニュース映像などを見せたりしていました。でも「見ていると辛くなるから実はあまり見たくないの」と言って、手短かに切っていました。
 今までの日本の生活が大変だった分、カナダでのこれからの生活に目を向けたいような印象を受けました。


●メルヴェ
メルヴェは9月から学校に通い始めます。「同居している子と一緒のクラスになれるといいね」と聞くと、「違うクラスになった方がいい。だって、そうしたほうが自分で考えて勉強するから、覚えられるもん。お母さんがそう言った」という、なかなか頼もしい返事が返ってきました。
「学校で友達がたくさんできるといいね」と言うと、「前、家に遊びに来た男の子の中が、「メルヴェの言うこと聞かないほうがいいよ」って、私の悪口を言ってイヤだった。日本の子の方が、優しかったと思う。」と、少し不安気ににしていました。
でも「もう、学校が始まるまで10日しかない!どうしよう!」といいながら、同居の女の子とせっせと英語の勉強に励む姿はとても前向きでしたし、家に遊びに来た年上の男の子がメモシュにちょっと意地悪をしたときにも、敢然とトルコ語で抗議をして一歩も譲る気配なし、という感じでしたので、
この先、何か嫌なことがあったとしても、きっと持ち前の気丈さでと前向きさで乗り越えてくれるだろうと感じさせてくれました。


●メモシュ
メモシュは、再会した時は、ほとんど日本語を忘れていましたが、私が何度か日本語を話しかけていると、段々思い出してきたようで、「ねえ、何してるの?」「ママがチョコレート食べませんかって」「下に行きましょう」「私もこれで遊びたいです」など、いろいろと話しかけてくれました。
メモシュは、いつも元気いっぱいでじっとしていない上、結構、乱暴に遊ぶこともあるので、他の小さい子とよく喧嘩になります(そして、それを仲裁したり、他の子からメモシュを庇ってあげるのはいつもメルヴェです。優しいお姉さんです)。
しかし、9月から学校に行って、他の子との共同生活を経験し、コミュニケーション手段が発達してくれば、段々落ち着きが出てくるような印象を受けました。
ドーガン家インタビュー
2007年8月31日 文責:周 香織
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